天敵昆虫 IPMの最新技術動向
天敵昆虫と微生物農薬の現状と展望

株式会社トーメン生物産業部アグロテックグループ
和田 哲夫


◆はじめに

 天敵昆虫の利用は当初はIPMを意識して始まったわけではない。「自然界にそれが存在している」から利用しようとする自然な発想でありIPMという考え方ができあがる以前にすでに始まっていた方法である。
とはいえIPMという考え方がでてこなかったら今ほど生物的防除が注目されることもなかったであろうからIPMは生物的防除にとっては救世主的なものといえるかもしれない。


◆「ククメリスカブリダニ」の台頭

 1999年に利用が増加した天敵はククメリスカブリダニである。これは対象害虫であるスリップスがいぜんとして最重要な難防除害虫であることを示している。
 これに対してオンシツコナジラミの発生は必ずしも多くなくオンシツツヤコバチの利用面積は横ばいであった。これは本年より本格的に使われ始めた昆虫成長調節剤(IGR)を含有するラノーテープ(一般名ピリプロキシフェン)の影響もあったと考えられる。
 一方でこのラノーテープを中心としたIPMとしてトマトでのマメハモグリバエ防除にマイネックス(イサエアヒメコバチとハモグリコマユバチの各125頭入り)の利用が始っている。
 IGRと天敵の組み合わせは天敵とフェロモンの組み合わせのように今後のIPMの理想的な形態のひとつとなりえそうである。


◆「待つこと」の重要さ

 チリカブリダニはイチゴを中心として利用されているがまだ大々的な利用は始まっていない。この理由は生産者および指導者が自信をもってハダニが増加していくなかでチリカブリダニがまだ徐々に増えていくときに自信をもってハダニが減っていくステージまで待てないからと考えられる。
 この問題はチリカブリダニだけではなくオンシツコナジラミでもククメリスカブリダニでも同じである。オンシツツヤコバチの場合、10アールあたり5株から10株程度ですす病が発生するくらいのケースでその株がコナジラミの発生源からツヤコバチの供給源に変化していくのである。
 安易な薬剤散布への逃避は生物的防除の逆風となる。天敵を使った場合、二つの経過に分かれる。一つは対象害虫の密度が当初から極めて低く、天敵を入れたあとも継続的に害虫密度が低いままで推移するケースである。この場合、一体天敵が働いたから密度が低いのか、それとももともと少ないまま推移したのか判断に苦しむ事が多い。しかし結果的に見れば害虫が増えなかったことは事実である。増えすぎたことに比べれば何倍もいいことである。


◆天敵の働きをモニタリングする

 このような場合、天敵利用の初心者には天敵が働いていることを証明する必要がある。一番良いのは、寄生された痕跡であるマミーや変色したハモグリバエの幼虫を探し出し示す(スカウティング)ことである。天敵に慣れていない農家は特に、さらには農協の営農指導や普及員などでも天敵の活動の結果を探しだすことが一般的にうまくない。これまでそのような訓練を受けたことがない人々がほとんどなので無理もないが、しばしば「天敵が働いていない」と指摘されたハウスで経験者が探すと5分程度でなんらかの痕跡を探し出してくることが多い。

ハウスでのスカウティングで重要なことは;

  • 必ずルーペを持参すること。
  • 経験によって違うが最低50枚程度の葉裏をチェックすること。
  • 害虫が毎年発生する場所を農家に聞いて重点的に見ること。
  • 簡単にあきらめずに多くのポイントで行う。

などであるが、生物的防除とは「まず葉裏にありき」と思うべきであろう。

IPMに組み入れられる化学農薬の基本的な選択基準として次の要素を考慮する必要がある。

  • 粒剤は散布剤に比べ影響が少ない。
  • 化学農薬で全ての天敵が排除されることはない。

(多くの場合、若干の天敵も害虫も残存するケースが多い)

  • ピレスロイド系の農薬は原則避ける。
  • どうしても散布する場合はスポット的に散布する。

(これも上述したように害虫の多いところが次第に天敵の発生源になりうるのでできるかぎり長く害虫と天敵の密度状況を観察することが重要である。)


◆微生物農薬の長所と短所

 微生物農薬が天敵と違うところは貯蔵性が高いところである。バチルス属(BT剤、ボトキラーなど)にいたっては耐久性のたかい胞子ともつため3―4年にわたる有効期間の保存も可能である。その他の菌、あるいはバクテリアでも冷蔵あるいは冷凍保存によりやはり3―4年の貯蔵が可能なものが多いが(キャンペリコ、バイオキーパーなど)、バーティシリウム菌などは冷蔵保存でも3ヶ月以内に使用することになっている。いずれにせよ保存できない天敵にくらべ圧倒的に優位な状況ではあるが
 一方でこれまでの微生物剤は散布剤であり、植物に水をかけるという病害にとって、多くの場合タブーである湿度上昇をもたらすという欠点は指摘されなければならない。
 またこれは案外見過ごされていることであるが、天敵の場合、ビンのふたをあけるだけ、あるいはぶら下げるだけという省力性が実は大きなメリットとなっておりこれにより大規模な施設栽培農家などは天敵の利用がより魅力的なものになっているのである。


◆10アールあたりの各植物保護剤の特性
(天敵、化学農薬の場合はコナジラミ、微生物は灰色かび病対象として)

植物保護剤

3ヶ月の防除コスト(10a)※

省力性(散布時間)

効果の発現まで

効果の期間

保存性

天敵昆虫

22、400円

15分

2週間後

2―3ヶ月

2―7日

微生物農薬

11、100円(化学農薬込み)

2時間

直後―2週間

2週間

3ヶ月―4年

化学農薬

20―50、000円

2時間

直後―2週間

1―4週間

3―4年

※天敵昆虫は放飼回数4回、 微生物農薬は3回散布(ローテイショナルに化学剤を3回)、化学農薬は散布回数10回として計算。


◆主な生物農薬の出荷金額と推定使用面積(1998年)

生物剤名

金額(百万円)

面積

備考

BT生菌

842

   

BT死菌

422

   

天敵昆虫

65

400Ha

 

バイオリサ

14

   

キャンペリコ液剤

72

   

バイオセーフ

200

1200Ha

 

ボトキラー水和剤

150

 

1999年度より

その他

10

   

合計

1775

   

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