巡礼6 半世紀の苦労を分けた古木
品種:巨峰(ぶどう)
所在地:福岡県広川町
栽培農家:原野 務さん
農家さんのコメント:
これ一本が一番よかとです。この木だけいっぺんに色づいてしまうですよ。
「これ1本がいちばんよかとです。この木だけいっぺんに色づいてしまうですよ」。
ブドウ栽培を営む原野務さん(75)は、ひときわ立派な1本の木を賞賛するようにほれぼれと眺める。色づきがいいと甘みも強い。昭和35年、父親の急逝で商売をたたみ農業を継ぐことになったとき、原野さんが初めて植えた巨峰30本のうちの1本だ。
広川町では戦前からブドウ栽培がさかんで、昭和30年代にはキャンベル種やベリーAを主流に出荷量を伸ばしていた。その中で、原野さんはあえて巨峰に取り組み始める。巨峰は、他の追随を許さない甘く大きな粒で魅了するかわりに、ひと房に数粒しか残らないほど実のとまりが悪く扱いにくい。まるで、わがままな女王のような魔性の品種だ。
JAふくおか八女の松尾博文さんの話では「安定して作れるようになったのは平成に入ってから。それでも人間の手でなんとかできるのは50%」だという。そしてこの50%にさえ、たどりつくまでには、農家の意地をかけた険しい道のりがあったのだという。
原野さんは「巨峰なんか作るのはアホだとまで、最初はいわれたとですよ」と苦笑いする。しかし、実さえつけば高値が約束されていた。原野さんは全国的な研究会に入会して技術を学びつつ、自らも研究と工夫を重ねた。「自分の腕いっちょうで実をとめないかん」という心意気だったと、原野さんは当時の熱い思いを語る。今、あるていど栽培法が確立し、巨峰はもはやわがままな女王ではなくなった。そして価格も庶民的になり「値段の数字は30年前と同じ」と原野さんはぼやく。妻のシノギさん(73)とふたりで守るブドウ畑は、年々少しずつ面積を小さくしている。
憑き物が落ちたような巨峰の棚はさわやかに明るく、初夏の風に枝葉をゆらしていた。
写真・文/大浦佳代
『オーソサイド水和剤』発売50周年記念企画 事務局 電子メール:
orthocide@arystalifescience.com
古樹巡礼トップページに戻る
〒104-6591 東京都中央区明石町8-1
http://www.agrofrontier.com/