Arysta Life Science
巡礼3 梅実る豊かな谷(その2)
品種:古城梅(梅)
所在地:和歌山県田辺市
栽培農家:那須京子さん
農家さんのコメント:
古城梅の普及は祖父の遺志。苗木をわけてほしいという人がいれば、全国どこにでも出しています。
 江戸時代の初め、現在の田辺市からみなべ町にかけてやせた土地が広がり、農民は困窮した。その打開策として田辺藩主・安藤直次が奨励したのが、梅の栽培だった。さらに梅の栽培地はやせ地として免税し、これを優遇したという。
 今日、和歌山県の梅は全国収穫量の約半分を占める。紀州の梅として知られ、代表的な品種に南高梅や古城梅がある。
 今回訪ねた3つの梅畑はいずれも山に囲まれた谷にあった。山の急斜面を切り開いた畑に先人の苦労が忍ばれた。
 那須京子さん(53)の畑には樹齢90年近い古城梅の原木がある。数年前に台風の被害で折れてしまったものの、天に向けて伸ばした枝先には累々と濃緑の実を付ける。
 高級梅酒の原料として知られる古城梅は、京子さんの祖父にあたる明治22年生まれの那須政右エ門さんが大正時代に改良した品種。古城は那須家の屋号だ。京子さんが政右エ門翁の思い出を語る。
 「祖父は研究熱心で教え上手。農家というよりも技術者でしたね」
 政右エ門翁は、23年前、91歳で亡くなる寸前まで、梅の世話をしながら、全国各地から寄せられる苗木の依頼や栽培の問い合わせに熱心に応じていたそうだ。梅酒に最適ということもあって、海外からの問い合わせも少なくないという。
 苗木の頒布依頼の電話は、いまもひっきりなしにかかってくる。「古城梅の普及は祖父の遺志。苗木をわけてほしいという人がいれば、全国どこにでも出しています」と京子さんは話す。
 そんな古城梅も、近年は収益性や幅広い用途から南高梅への転換が進み、生産量は最盛期の半分にまで落ちている。こうした状況に風穴を開けようと、古城梅発祥の地の長野地区では古城梅振興会を結成し、原木から穂木を取った苗木を増やす活動を続けている。
写真/小松稔 文/杉本政光
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