Arysta Life Science
巡礼1 さくらんぼの花見
品種:佐藤錦(桜桃)
所在地:山形県東根市
栽培農家:阿部恭太郎さん
農家さんのコメント:
ここらは昔から名水で有名な土地。土もここだけ深く根がよく張った。水と土のおかげで長生きしたのでしょう。
 全国一のさくらんぼ出荷量を誇る山形県東根市は、さくらんぼの王様と呼ばれる「佐藤錦」発祥の地でもある。その佐藤錦の原木の苗から育てた一本が現存すると聞き、山形空港の近くにある阿部恭太郎さんの畑を訪れた。
 今年83歳になる阿部さんは、終戦の年の秋に、5年生ほどの苗木を植えた。最上川の扇状地で、土壌は砂利がちなのだが、なぜかこの樹のところだけ土が深く、十分に張った根で土中の栄養をしっかり吸い上げ、樹齢65年の今日を迎えた。
 佐藤錦は大正時代に、佐藤栄助を生みの親に、友人で苗木生産者の岡田東作を育ての親に生まれた。加工用のナポレオンと生食用の黄玉がもつ長所をうまく掛け合わせた佐藤錦は、品質が良く、輸送に耐え、収穫が梅雨と重ならなかった。昭和の時代に入ると、さくらんぼの主力品種として全国に普及した。
 写真の佐藤錦は高さ5メートルほど。花は満開から1週間ほど過ぎてはいるが、突然の訪問者を楽しませるには十分だ。四方を囲むパイプは、裂果障害防止のための雨よけシートをかけるためのもの。このシート、戦後、専門家からの「そんなものをかけたら3年で枯れる」という非難の声に背を向けて、この地の農家が有志で開発したものだという。
 雨が降ればシートをかけ、遅霜のときには温度管理が欠かせない。手間はかかるし、大雪にみまわれた今年は燃料代が嵩み、経費倒れに終わる農家も少なくないという。それでも、この日、訪ねた東根市の農家のみなさんは「さくらんぼはいい」と口を揃える。
 荒木さん夫妻にその理由をたずねると、4月の開花から6月の収穫までに労力がほぼ集中するからだという。短期決戦型で、りんごやラ・フランスなど、他の果樹と繁忙期が重ならないところが何よりも魅力だそうだ。
 ところで、戦前の古樹が残っていないのは、燃料不足で炭として焼かれたことが大きいようだ。また、海軍の練習基地があった関係で、終戦に近い頃には連日のように急襲を受けたというから、果樹の世話どころではなかっただろう。

荒木清五さんのりんご
 取材当日は、松田さん夫妻が三代に渡って世話する樹齢60年を超える佐藤錦も見せていただいたが、その土地はかつて防空壕があった場所とのことだった。滑走路に近い阿部さんの畑に至っては練習機の隠し場所になっていたという。
 戦争の時代を苗木で過ごした佐藤錦の原木は、その後、人の手にささえられながら、雨にたえ、風にたえ、雪にたえ、毎年、花を咲かせてきた。例年なら、6月上旬には、累々と実を付けるが、今年は1週間ほど遅いかもしれないという。
写真/小松稔 文/杉本政光

松田茂雄さんの桜桃
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