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1.BT剤の特性と効果最近の病害虫防除には、安全性に対する考慮や難防除害虫に対する対応もしくは作業上の省力化などの観点から、これまでの化学農薬一辺倒の防除から、物理的あるいは耕種的防除を含め、選択的な農薬や天敵昆虫・微生物などを利用した防除方法を取り入れた総合的病害虫管理(IPM)への取り組みがなされている。 作物の中でも特に施設栽培トマトでは、受粉用マルハナバチや、その他微小害虫防除に対するオンシツツヤコバチやイサエアヒメコバチ・ハモグリコマユバチをはじめとした天敵昆虫の利用が普及しはじめている。 このことから、一般的な防除に際してはこれら有益昆虫に影響の少ない選択的な殺虫剤を利用することが望まれている。この選択的な薬剤には、従来よりブプロフェジンやフルフェノクスロンなどのIGR剤が利用されている。 微生物殺虫剤であるBT剤も同様に、ターゲットとする害虫以外への影響が少なく、鱗翅目害虫防除剤の一つとして使用されている。 昨年(1999年)、BT剤アイザワイ系統のクオークフロアブルが登録認可された。本薬剤はトマトに対しても既に登録されているが、前述の理由から今後利用場面が多くなると思われる。そこで、これまでに行なったクオークフロアブルの効果試験結果を紹介する。 2.トマトの害虫トマトに寄生する害虫には、時期や地域で発生量は異なるが、主にアブラムシ類、コナジラミ類、スリップス類、マメハモグリバエ、トマトサビダニおよび鱗翅目幼虫などが挙げられる。被害の重要度から見ると、害虫の直接的な加害のみではなく、害虫が媒介するウイルスによる被害が大きい。特に最近では、スリップス類媒介によるトマト黄化えそウイルス(TSWV)の被害が全国的に拡大し、大きな損害を与えている(花田、1999)。 しかし、一般的には鱗翅目幼虫加害による被害が大きく、トマトの茎葉や果実を激しく加害するため、発生を認めた場合の防除の重要度は高い。 ここでは、クオークフロアブルがトマトでターゲットとする2種の鱗翅目害虫(ハスモンヨトウSpodopteralitura FabriciusおよびオオタバコガHelicoverpa armigera Hubner)について取り上げたい。 3.ハスモンヨトウに対する防除効果ハスモンヨトウは西日本ではポピュラーな鱗翅目害虫であり、休眠性を持たないことから温度が確保された場合は周年的に発生し、施設野菜の普及とともに分布域を広げてきた。 宮崎での性フェロモントラップ調査の結果によると、冬期最低気温が10℃を超える日は成虫が捕獲されることが示され(黒木ら、1997)、ハウス抑制〜促成栽培のトマトでも防除を必要とする。ハスモンヨトウの加害部位は主に葉が中心で、中老齢幼虫になり口器が発達すると果実にも食入する。また、既存殺虫剤では幼虫の齢期進行によって薬剤感受性が低下するため、防除には苦慮しているのが実状である。 ハスモンヨトウ幼虫に対する圃場試験結果を、第1表〜第3表に示した。第1表は1997年6月に施設栽培トマトを用いて実施した試験である。宮崎で発生した個体由来の若齢幼虫期に散布した結果、クオークフロアブルは散布3日後には寄生虫数を抑え、速効的に高い防除効果を示した。また、第2表は第1表試験の散布7日後に採取した中位葉に、ハスモンヨトウの3齢幼虫を放飼した結果であるが、放飼4〜5日後には高い殺虫効果が認められた。一般にBT剤は残効性が短いといわれるが、散布後に寄生した幼虫にも高い効果があることが示された。第3表は1998年6月に行なった試験であるが、第1表試験と同様に高い防除効果が得られ、条件が異なっても安定した結果が得られた。
4.オオタバコガに対する防除効果オオタバコガは、以前から発生はあったものの量的には少なく、大きく取り上げられることはなかった。しかし、1994年頃より各地で顕在化し(吉松、1995)、多大な被害を与え問題となっている。加害作物は多岐にわたり、果菜類や花卉をはじめ30種類以上が報告されている。被害作物の中でもトマトは発生地域のアンケート調査の結果、被害が最も多かった作物で(浜村、1998)、発生が認められれば防除が不可欠な作物といえる。 被害様相は作物により異なるが、トマトでの被害は、若齢幼虫期には花や蕾を好み果房に集中する。しかし、幼虫の齢期進行に伴い、葉以外の茎や果実への食入も行なわれる。茎への被害は上中位部の比較的柔らかいところが多いようであるが、髄に食入することで芯止まりや萎れ症状を引き起こすため生育初期での被害は特に大きくなる。また、果実の被害も商品価値を失うため、防除はハスモンヨトウと同様に不可欠となる。 薬剤感受性についても多くの報告例があり、既存殺虫剤に対して低い値を示す例が見受けられる。こういった事情から平成10年度(1998)より2年間、難防除害虫の緊急対策事業として、特別連絡試験((社)日本植物防疫協会主催)が設けられ、クオークフロアブルをはじめ有効な薬剤が見出された。次に、クオークフロアブルのオオタバコガ幼虫に対する圃場試験を行なった結果を第4表に示した。1998年11月に行なった試験であるが、若齢幼虫期に散布した結果、散布7日後には寄生虫数を0に抑制した。また、試験期間中に花や蕾への被害も若干認められたものの、被害果率は無処理区の21.9%に対し、クオークフロアブル散布区は0%に抑制した。 トマトでのオオタバコガは中老齢幼虫期になると、次々に他の部位に移動するため、目に付きやすくなる。そういった場合は概して中齢期以上のことが多く、防除が遅れたことを意味する。このような状況での防除を想定して実施した4齢幼虫対象の室内試験結果を第5表に示した。処理はトマト小葉を展着剤添加薬液に30秒間浸漬し、風乾後にオオタバコガ幼虫を放飼した。結果は処理4日後までの調査ということもあり、クオークフロアブルの死虫率は40%程度であったが、トマト葉の食害度、生存個体の平均体重はいずれも無処理区の3分の1と低かった。 BT剤には殺虫効果だけではなく摂食阻害効果があることも知られており、本試験でも同様の効果が認められた。これらのことからクオークフロアブルは、トマトのオオタバコガ中齢幼虫に対してもやや殺虫効果が低下するものの有効であることが示された。
5.効果的な使用法トマトに限らず施設作物に鱗翅目幼虫が加害すると、他の微小害虫より被害が目立ち易く防除時期を把握しやすい。しかし、栽培面積が広くなるにつれて初期発見が遅れ、防除適期を逃すことも多くなる。特に中老齢幼虫の時期は薬剤感受性が低くなるため、発生予察で使用地域の発生消長を把握し、比較的薬剤感受性の高い若齢期防除に努める必要がある。また、同一薬剤の連用は害虫の薬剤抵抗性獲得要因となるため、薬剤の特性を踏まえたローテーション散布は効果を維持するために必須である。 なお、クオークフロアブルは製剤のフロアブル化により、使用に当たり扱い易さや果実等への汚れ軽減にもメリットがあるものと思われる。また、薬剤散布に関しては、散布液量が過剰になると散布液は落下流亡を起こし、付着量は逆に減少することが知られている。散布については、薬剤の有効成分を生息部位にいかに多くかつ均一に到達させるかが鍵となるため、適量散布に心がけることも肝心な点である(日本農薬学会編、1997)。 今後、特に施設栽培では、冒頭に述べたように労力の軽減や薬剤抵抗性対策として、訪花昆虫や天敵昆虫利用の場面が増えるものと思われる。これらの資材を有効に活用できる環境づくりのためにもBT剤のクオークフロアブルの活躍に期待したい。
((社)日本植物防疫協会研究所)
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