新規BT剤ゼンターリ顆粒水和剤について

富田 靖浩

- トーメン農薬ガイドNo.84/H (1997.7.1) -


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1.はじめに

 BT剤は1996年(平成8年)末時点で既に7剤が登録・販売されており、開発中のものが10種類近くある。そのような状況下で、Bt菌の亜種aizawai由来のBT剤ゼンターリ顆粒水和剤は1991年に武田薬品工業(株)、北興化学工業(株)の協力を得て開発が開始され、1997年3月27日に登録された。
 ここでは、今までに、実施された試験結果を元にゼンターリ顆粒水和剤の特長を述べるとともに、特にキャベツでの適切な使用方法について提案する。

2.ゼンターリ顆粒水和剤の特長

(1)適用内容

 本剤はキャベツの重要害虫であるコナガ、アオムシ、ヨトウムシ、ダイコンのコナガ、アオムシ、茶のチャハマキ、チャノコカクモンハマキ等に適用がある(第1表)。

第1表 ゼンターリ顆粒水和剤の適用内容
作物名 適用害虫名 希釈倍数 使用時期 本剤及びBTを含む
農薬の総使用回数
使用方法
キャベツ アオムシ、コナガヨトウムシ 1000〜
2000倍
発生初期
ただし、収穫7日前まで
4回以内 散布
だいこん コナガ、アオムシ
りんご ハマキムシ類 1000倍
チャノコカクモンハマキ
チャハマキ
発生初期
ただし、摘取7日前まで
3回以内
スジキリヨトウ
シバツトガ
発生初期 6回以内 1平方メートル
当り0.3リットル散布

(2)成分

 本剤は有効成分としてBt菌の生芽胞とσ-トキシンと呼ばれる結晶性タンパク毒素を持つ。これらの有効成分が付着した作物をりん翅目害虫が摂食し、害虫体内で消化されることによって殺虫効果が発現する。

(3)コナガに対する効果

 本剤の特長としてコナガに対する高い効果が挙げられる。コナガ防除はアブラナ科野菜の最も重要な課題の一つであるが、薬剤の連用による感受性低下の問題が表面化しており、BT剤についても、一部の地域では感受性低下が報告されている1),2)。それらの地域の一つである千葉県銚子市の現地圃場で、キャベツのコナガに対する防除効果が、多発条件下で検討された(第2表)。結果は散布3日後から、すでに他のBT剤が十分な防除効果を発揮できない一方で、ゼンターリ顆粒水和剤は散布6日後までコナガの密度を低く抑えた。同じ条件下でBT剤間にこのような違いがでてくるのはどのような理由によるものか?この結果の違いを示す明確な理由は突きとめられていないが、その一因として、本剤の亜種aizawaiと他の多くのBT剤の亜種kurstakiとでは産生するσ-トキシンの種類が異なることに関係があると言われている(第3表)。ノシメマダラメイガでは、σ-トキシンCry IA (b)(クライワンエービーと読む)に抵抗性を示す個体に対して、亜種--aizawaiが産生するσ-トキシンCry ICが、高い殺虫活性を示すことが報告されており3)、コナガではないが、σ-トキシンの種類による活性の違いが示されている。他の試験でも、大阪府岸和田市で高度に発達したBT剤抵抗性個体が、亜種kurstaki由来の製剤には交叉抵抗性を示すが、亜種kurstakiおよびaizawai由来の製剤には高度の抵抗性を示さなかった6)ことはこの考え方と一致する。今後コナガに対してもσ-トキシンの種類による殺虫活性の違いを証明することが必要である。

第2表 キャベツのコナガに対する防除効果(抜粋)
       1995年 全農新農薬普及性評価圃場試験成績集より
                             注:()内は補正密度指数
薬剤名 希釈倍数 20株当りの虫数
散布前 散布3日後 散布6日後
若齢 老齢 合計 若齢 老齢 合計 若齢 老齢 合計
ゼンターリ顆粒水和剤
aizawai系)
1000倍 105 27 5 137 11 1 0 12
(4.0)
44 2 0 46
(9.1)
生菌BT剤
kustaki系)
1000倍 99 36 5 140 65 14 2 81
(26.2)
177 23 4 204
(39.6)
死菌BT剤
kustaki系)
1000倍 150 14 2 166 87 6 0 93
(25.4)
129 18 1 148
(24.2)
無処理 - 85 19 2 106 208 24 2 234 340 45 5 390

第3表 BT剤が持つσ-トキシンの種類(ABBOTT社より)
σ-トキシンの種類

薬剤名
Cry I A(a) Cry I A(b) Cry I A(c) Cry I C Cry I D Cry II A Cry II B
ゼンターリ顆粒水和剤(aizawai系)    
BT剤(kustaki系)    

 

(4)他のりん翅目害虫に対する効果

 BT剤はコナガ以外のりん翅目害虫に対しては、既存の化学農薬と比べて、一般的に活性が同等かやや劣ると考えられているようであるが、本剤1,000倍の1回散布はキャベツのヨトウムシに対する圃場試験で、散布14日後まで、化学農薬と同等載の高い防除効果を示した(第4表)。地域によってはヨトウムシもキャベツ栽培における需要害虫であり、本剤はコナガとの同時防除剤として有効である。

第4表 キャベツのヨトウムシに対する防除効果(抜粋)(1994年 岩手県園芸試験場)
()内は補正密度指数、[幼令]はふ化直後の若令幼虫を指す
補正密度指数はす化直後の若令幼虫を除いて算出した
薬剤名 希釈倍数 10株当りの虫数
散布前 散布7日後 散布14日後
幼令 若令 老令 合計 幼令 若令 老令 合計 幼令 若令 老令 合計
ゼンターリ顆粒水和剤
aizawai系)
1000倍 74.5 36.5 3.5 114.5 0 0 0 0
(0)
0 0 0 0
(0)
アセフェート水和剤 1000倍 107.5 36.5 0 144.0 0 0 0 0
(0)
0 0 0 0
(0)
死菌BT剤
kustaki系)
1000倍 44. 62.5 2.5 109.0 0 32.0 10.0 52.0
(40.1)
0.0 12.5 25.5 38.0
(74.7)
無処理 - 91.5 63.5 0.5 155.5 30.0 90.0 14.0 134.0 25.5 27.0 23.5 76.0

▲ヨトウムシ幼虫
▲チャハマキ幼虫

第5表 チャハマキに対する防除効果(1993年 静岡県茶業試験場)
防除率は幼虫数を用いて計算
薬剤名 希釈倍数 平均巻葉数/1平方メートル 平均幼虫数/1平方メートル 防除率(%)
ゼンターリ顆粒水和剤
aizawai系)
1000倍 3.6 2.7 75.1
生菌BT剤
kustaki系)
1000倍 6.5 4.8 56.2
生菌BT剤
kustaki系)
1000倍 5.5 4.0 64.0
生菌BT剤
kustaki+aizawai系)
1000倍 5.6 4.6 58.4
A 剤 1500倍 5.6 4.0 63.7
無処理 - 14.6 11.0 -

 
 茶のチャハマキに対して本剤は第5表の通り、対照薬剤より優る高い防除効果が認められた。静岡県ではチャハマキのIGR抵抗性が問題となっており、IGR代替剤が検討されている4)ことから、本剤は代替剤候補の一つとして有望と思われる。
 現在、BT剤は茶の防除にはほとんど使用されていないのが実態であるが、今後人畜に対する安全性や対象外生物に対する影響の少なさ等の特長が生かされ、BT剤の普及率の高まるであろう。

3.キャベツのコナガ防除におけるゼンターリ顆粒水和剤を含めた体系防除の提案


▲ゼンターリ顆粒水和剤


▲コナガ幼虫

 

 薬剤抵抗性が発達しやすいコナガに対しては、同一系統の薬剤を連用しないローテーション防除が現場でも定着している。ローテーションで使用される薬剤は、BT剤、IGR剤、ネライストキシン系剤や有機リン剤、昨年(1996年)登録されたクロルフェナピル剤等の中から組み合わせを考えて選んでいることが多い。また、薬剤選定にあたってはそれぞれの薬剤の残効性が考慮される。BT剤の残効性は本剤も含めて、一般的に10日前後である。これらのことから、第1図のようなローテーションが一般的と思われる。


第1図 キャベツのコナガに対するローテーション防除例

 
 この中でBT剤は、ローテーション中の基幹剤として、2回の使用枠が用意されている。この理由としては、効果の高さや安全性が挙げられるが、合成ピレスロイド剤等と比べると抵抗性が発達しづらいことが報告されており5)、薬剤抵抗性発達の回避策として意義がある。
  さらにここではaizawai系のゼンターリ顆粒水和剤とkurstaki系薬剤を1回ずつ使用することを薦めたい。前述のコナガに対する試験結果から、kurstaki系BT剤とaizawai系BT剤は同一系統ではないかと考え、薬剤ローテーションをしたほうが良いと思われる。他の化学農薬は元よりBT剤間でも抵抗性の発達を回避するためである。
 BT剤はアブラナ科野菜のコナガ防除剤として、長年使用されてきたが、施設野菜で問題となっているハスモンヨトウやオオタバコガに開発中のものが、既存剤も含めて最近でてきており、今後その他のりん翅目害虫も含めて、さらに用途が広がっていくと考えられる。
 本剤も前述の特長を生かして、イチゴやトマトのハスモンヨトウに適用拡大していく予定である。また、その他にもハクサイのコナガ、アオムシ、ヨトウムシやブロッコリー、カリフラワーのコナガ等に適用拡大を予定している。
 最期に本報告を作成するにあたり、試験成績を利用させていただいた関係者の方々にお礼を申し上げる。

((株)トーメン生物産業部)

 文献
1)河名利幸(1996):今月の農業10月号88〜91
2)足立年一ら(1990):応動昆大会講要237
3) Van Rie J.et al.(1990):Science247:72〜74
4)浜弘司ら(1990):応動昆大会講要235
5)小杉由紀夫(1997):応動昆大会講要94
6)浜弘司(1991):植物防疫第45巻502〜505

 

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